チョークで書かれた看板「本屋 小屋BOOKS」が目印どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。みなさんは、自分らしい仕事をしていますか?グッドアイデアはある。実現すれば、きっと社会はもっと豊かになる。何より、自分の人生が楽しくなる!そんな想像をしていても、店舗の賃貸契約や仕入れなどの初期投資を考えたら、事業化に向けて一歩を踏み出す勇気が持てない。自分らしい仕事を始めたいけれど、二の足を踏んでしまい、未だにスタートできていないという人は多いはずです。今回、紹介する「小屋BOOKS(以下、小屋ブックス)」の店主・松井祐輔さんは、新刊書店という参入障壁の高い分野で、自分が信じたアイデアを実践し、ひょいっとハードルを乗り越えて、自分らしい本の仕事をスタートさせました。松井さんは確信していました。自分の考えた「上手に本棚を活用する販売方法」を試せば、きっと本を読んでいない人にも新刊書籍を手に取ってもらうきっかけがつくれる、と。東京都港区の虎ノ門にある、日本仕事百貨とグリーンズが共同運営している、自由に自分のやりたい仕事を試しながら参加できるコミュニティ「リトルトーキョー」に生まれた、わずか2坪の小屋で商う働き方の総合書店「小屋ブックス」。そこで松井さんが実践した、無理なく始めることができる本屋さんの新しい形とは? 松井さんに、小屋という狭小スペースで試みた1年半の小商いを聞きました。 松井 祐輔(まつい・ゆうすけ)1984年生まれ。愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である出版取次会社に就職。2013年に退職後、2014年2月にファンから参加者になるための人と本屋のインタビュー誌『HAB』を創刊。2014年4月、東京都港区の虎ノ門にあるリトルトーキョー内で本屋「小屋BOOKS」をオープン。初期費用18万7000円。わずか2坪で年間売上750冊を達成小屋ブックスは、リトルトーキョーに併設する2坪の小屋にあります。子どもの頃にやってみたかったことから新しく考えた仕事まで、市民というコミュニティメンバーになって自由に試すことができるリトルトーキョーのコンセプト「もう一つの肩書きを持つこと」にちなみ、働き方に関する本を取り扱い、小屋という狭小スペースに合わせて、常時300〜350冊の書籍と雑誌をそろえています。新刊書店を始めると言っても、そのハードルはとても高いものです。なぜハードルが高いのかというと、本の流通の仕組みが関係します。新刊書籍の多くは、出版社から発売されたのち、取次会社と呼ばれる卸売業者を経由して、委託販売として本屋さんに並びます。新しく本屋さんを始める人と本の販売を委託する取次会社では、必要とする売上目標に差がある場合が多く、本を仕入れる契約をなかなか結べません。小屋ブックスもその例外ではありませんでした。そこで松井さんは、本を買い切りで仕入れることにします。手始めに、古本屋の町として知られる東京都千代田区の神田神保町にある店売所(本屋さん向けの新刊書籍販売店)に足を運び、平均して販売価格の78%に当たる卸値で購入。2坪という狭小スペースが利点になり、約200冊の本で小屋ブックスを開業できたと言います。最初は総額で約18万7000円の初期投資で済みました。本が好きな人なら、200冊くらい自宅の本棚に所有していますよね。年間で20万円ほどの書籍を購入する方もいるかと思いますし、販売して売上に変わるお金なので、大きな出費ではありませんでした。松井さんは、自分の所有できる本棚サイズの小商いとして、小屋ブックスを始めたのです。 小屋ブックスの店内。狭小スペースに並ぶ本のレイアウトは平均月1回変化する日中、松井さんはほかの仕事に取り組んでいる時間帯があります。そのため、小屋ブックスの会計はリトルトーキョーのBar「ジャノメ」のバーテンダーが担当しました。自分のできること、できないことを切り分けて、他者に協力してもらったことも小屋ブックスの特徴です。他者の協力を仰ぐ以上、売上は折半しました。小屋ブックスの場合、販売された売上は、Bar「ジャノメ」を運営する株式会社シゴトヒトにも分配。仮に10%がシゴトヒトの売上になるとしたら、残り12%が小屋ブックスの売上になります。その12%から、品切れした本を仕入れる費用を捻出していたようですが、いくら松井さん自身が所有できる本棚サイズで小商いを始めたとはいえ、利益はあまり出なかったのでは?当然、大人ひとりが生きていけるだけの売上を立てることはできません。でも、そこは損をする仕組みにしても仕方ないので、いろんな工夫をして、平均の仕入れ値が販売価格の78%から75%に減るようにしていきました。買い切りであれば70%で卸してくれる取次会社を利用したり、仕入れたい本をつくっている出版社と直接取引をして60〜70%で買い切りさせてもらったりしましたね。工夫が実り、小屋ブックスは2014年4月のオープンから現在まで休業せずに営業しました。年間750冊の本を売り上げ、小商いと呼べるくらいの利益を得ることにも成功。1年半で約1100冊の本が誰かの手元に渡った計算になります。それは、単純に利益を得ただけではなく、松井さんにとって特別な意味がありました。リトルトーキョーに訪れた人は、本を買いにきたわけじゃありません。小屋ブックスの珍しさやリトルトーキョーを訪れた記念で買ってもらったのだとしても、本に興味を持っていたわけじゃない人が新しい本を知るきっかけをつくれた。ぼくは、人と新刊書籍の接点を増やしたかったんです。本の流通に切実でいたい。取次会社出身者の明るい野望インタビュー当日も仕入れた本を陳列していた松井さん松井さんには、どうしてもリトルトーキョーの小屋で本屋さんを開きたかった動機があります。小屋ブックスで実践した方法で、「750冊、売りました!」という実績をつくりたかったんです。この形だったら、新刊が売れるということを、行動として示したかった。他の人も同じようにすれば、新刊書籍を販売する小商いを始められることを伝えたかったんです。本に興味がない人でも、出版不況という言葉を耳にする機会が多くなった時代。スマートフォンが普及して、ニュースも物語も画面越しに見ることが一般的になりました。そんな中、2013年まで取次会社に勤めていた松井さんは、自分が多くの学びを得てきた新刊書籍を広めたい一心で、小屋ブックスに取り組みました。小屋ブックスのようなやり方なら、既存の本屋さんの売上を減らさずに、本に興味がなかった人にも本を知ってもらう機会を増やせます。小屋ブックスが10カ所あったなら年間7,500冊、100カ所あったなら年間75,000冊、今まで本と出会わなかった人と本をつなぐことになるんです。松井さんの考えた、本棚サイズの新刊書籍の販売方法なら、カフェやイベントスペース、ギャラリー、セレクトショップなどの空きスペースでも実践できます。実は2015年9月25日に、移転のためリトルトーキョーが幕を閉じるのですが、そうすると、せっかくつくった売れる本棚がマイナス1になる。それは単純に嫌なので、また新たに生まれるリトルトーキョーのような場所や、違う場所で小屋ブックスで実践した新刊書籍を販売する本棚を始めたいと準備をしています。でも、このような本棚の小商いをたくさん増やして、自分が大金を稼ぎたいわけじゃないんです。小屋ブックスのような取り組みをしたい人がいるなら、ぼくはいくらでも教えたい。人と本との縁を増やすことこそが、ぼくの野望だから。そんな松井さんの野望は、グッドアイデアであり、大切な夢でもあります。そして、取次会社の出身者だからこそ、胸に抱いた使命でもありました。例えば、良い本をつくりたいと思っている人はいるし、ちゃんと知識があって本を売っている人もいる。でも、新刊の流通をずっとやっていて、流通をどうにかしたいと思っている人は少ない。だから、流通の知識がある人間が本気にならなきゃいけないと思っているんです。ぼくは、小さな本屋をやることって、流通だと思っているんですよ。新刊を小ロットで仕入れて、工夫して売っていく。今後もそれを続けていきます。松井さんがリトルトーキョーで踏み出した一歩は、使命をいつしか希望に変えて、これからも続く道になりました。退職後1週間、すべては小屋づくりから始まったそんな小屋ブックスでの松井さんの挑戦が始まったのは、今から2年3カ月前にさかのぼります。2013年6月、松井さんは6年間勤め上げた取次会社を退職しました。それは、会社の方針とは異なり、自分なりに本と関わっていきたいという気持ちに素直になって踏み出した一歩でした。松井さんには、当時から変わらぬ想いがあります。それは「参加者になりたい」ということ。取次だけでなく、出版や販売といった本にまつわる業務全てに関わることをモットーにしています。そんな松井さんは、取次会社に在職中から、東京都世田谷区の下北沢にある本屋さん「B&B」にインターンとして携わり、販売を経験。また、2014年2月には、自ら立ち上げた出版社「H&S Company」から、人と本屋さんにまつわるインタビュー雑誌『HAB – Human And Bookstore』を発行しました。松井さんが小屋ブックスを始めるリトルトーキョーの小屋と出会ったのも、この渦中、会社を退職して1週間が過ぎたタイミングでした。当時、リトルトーキョーはオープン前。開拓者という、リトルトーキョーをつくっていく人を募集している時期でした。以前から日本仕事百貨やgreenz.jpを読んでいた松井さんは、開拓者に応募。初めて訪れたリトルトーキョーのできる土地で、最初につくった施設が、のちに小屋ブックスになる小屋だったのです。電動ドライバーを持つことさえ初体験。それでもほかの開拓者と一緒に取り組む小屋づくりは、松井さんにとって楽しい時間でした。ところが、1日小屋づくりをしてみたところ、完成までにはまだまだ作業が必要なことを実感します。リトルトーキョーはプレオープンの日程が決まっていましたが、これでは当日に間に合いません。松井さんは、その日から1週間、暇を見つけてはリトルトーキョーに駆けつけて、小屋づくりを支えることにしました。リトルトーキョーがプレオープンした後、リトルトーキョーでは市民の募集が始まり、松井さんは第0期の市民になってリトルトーキョーと関わり続けることに決めました。市民は、リトルトーキョーでやりたいことを実行していきます。松井さんは他の市民と協力して、手始めにBar「ジャノメ」とイベントスペースをつなぐ廊下の壁に本棚をつくりました。 リトルトーキョー内につくった本棚。上下に分かれているもともと開かずの物置になっていたところを、扉を外して、棚を解体して、本棚にしたんです。その作業をしている間も、小屋の活用方法が気になっていました。実のところ、廊下の壁に本棚をつくっていた2013年の年末になっても、小屋は物置部屋のように使われていたのだとか。市民になってから、ずっと本屋さんをしたいと宣言していた松井さんは、壁の本棚が完成したことをきっかけに、改めて、日本仕事百貨のナカムラケンタさんにその想いを伝えました。せっかくつくった小屋なのだから有効活用したい、という松井さんの気持ちを実行に移したのは、2014年2月のことでした。4月1日が小屋ブックスのオープン日。2カ月で、本を並べることができるように、内装を整え、本棚をつくり、仕入れをしました。改修では、市民のみんなや建築士の長谷川欣則さん、ケンタさんが手伝ってくれて、みんなのおかげでオープンできました。小屋の小商いは「補修・建て増し」が楽しいみんなの力を借りてスタートすることができた小屋ブックス。とはいえ、店舗になる小屋には、天井に透明なパネルが貼ってあり、太陽光が差し込んでしまう。また、小屋は

情報源: 初期費用18万7000円。わずか2坪で年間売上750冊を達成! リトルトーキョーにある働き方の総合書店「小屋BOOKS」が実践した、狭小スペースの小商い | greenz.jp